熱産生とエネルギー消費を抑える新しいメカニズムの発見?エネルギーの無駄遣いにブレーキをかける酵素「SIRT7」?

【ポイント】

  • 老化や様々な代謝調節に必要な酵素「サーチュイン」のひとつであるSIRT7が褐色脂肪組織(BAT)のみで無いマウスでは、体温と全身のエネルギー消費が高くなることを見出しました。
  • 遺伝子改変マウスや培養細胞を用いて、SIRT7が欠損すると褐色脂肪細胞のUCP1タンパク質量が増加することを明らかにしました。
  • SIRT7は、RNA結合因子IMP2のアセチル化修飾を取り除くことで、UCP1タンパク質量を減少させるという新たなメカニズムを発見しました。

【概要説明】

 熊本大学大学院生命科学研究部の吉澤達也准教授、山縣和也教授らの研究グループは、老化や様々な代謝調節に重要なサーチュインのひとつであるSIRT7が、褐色脂肪組織(BAT)による熱産生と全身のエネルギー消費を抑えている重要な因子であることを発見し、熱産生に重要なタンパク質の働きを抑える新しいメカニズムを解明することに成功しました。

 BATは、主にUCP1という分子を介して熱を産生する脂肪組織です。寒冷刺激や食事摂取によるエネルギー消費の亢進に重要であり、その機能低下は肥満の一因になります。さらに、BATがホルモンなどを分泌して、全身のエネルギー代謝などを調節することが明らかになりつつあります。したがって、BATの活性化はメタボリック症候群などの予防?治療法開発の標的として注目されています。しかし、BATの機能にブレーキをかける分子メカニズムについては不明な点が多く、これまで明らかになっていませんでした。

 今回、研究グループは、BATSIRT7が無いマウスでは体温と全身のエネルギー消費量が高くなることを見出しました。さらに、UCP1のタンパク質量を抑えるRNA結合因子IMP2の活性化にはSIRT7が重要であり、SIRT7が無いとIMP2の働きが弱まることでUCP1量が増え、熱産生が増加するという新たなメカニズムを解明することができました。

 本研究の研究成果から、SIRT7によるIMP2/UCP1の調節経路がメタボリック症候群の新たな予防?治療薬開発のための標的となることが期待されます。また、がん悪液質?熱傷?感染症などエネルギー消費量が異常に亢進する病態への応用も考えられます。

 本研究成果は、文部科学省?日本学術振興会の科学研究費補助金、日本医療研究開発機構(AMED)「老化メカニズムの解明?制御プロジェクト」の支援を受けて行われ、令和4121219時(日本時間)に、英国のNature系科学誌「Nature Communications」オンライン版において掲載されました。

※本研究成果は、熊本大学大学院生命科学研究部の尾池雄一教授、荒木栄一教授、荒木令江准教授、田崎雅義准教授、ハーバード大学の梶村真吾教授、ドイツマックスプランク研究所のThomas Braun教授、スイス連邦工科大学のJohan Auwerx教授との共同研究により得られました。


【論文情報】

  • 論文名:SIRT7 suppresses energy expenditure and thermogenesis by regulating brown adipose tissue functions in mice
  • 著者名:Tatsuya Yoshizawa*, Yoshifumi Sato, Shihab U. Sobuz, Tomoya Mizumoto, Tomonori Tsuyama, Md. Fazlul Karim, Keishi Miyata, Masayoshi Tasaki, Masaya Yamazaki, Yuichi Kariba, Norie Araki, Eiichi Araki, Shingo Kajimura, Yuichi Oike, Thomas Braun, Eva Bober, Johan Auwerx, Kazuya Yamagata*

    *共同責任著者

  • 掲載誌:Nature Communications
  • doi:https://doi.org/10.1038/s41467-022-35219-z

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【詳細】 プレスリリース(PDF696KB)



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お問い合わせ
熊本大学大学院生命科学研究部
病態生化学講座
担当:准教授 吉澤 達也
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