双極性障害患者神経細胞におけるDNAメチル化変化とその特性を解明

【ポイント】

  • 双極性障害(躁うつ病)患者の前頭葉神経細胞におけるDNAメチル化1状態を明らかにしました。
  • 遺伝子転写制御領域2の全体的な低メチル化と共に、神経機能に重要な遺伝子では高メチル化していることを見出しました。
  • DNAメチル化変化は、双極性障害との遺伝学的関連が報告されているゲノム領域に集積していることを見出しました。

【概要説明】

 熊本大学大学院生命科学研究部の文東美紀准教授、上田順子大学院生、岩本和也教授、順天堂大学大学院医学研究科の加藤忠史教授、理化学研究所、東京大学の共同研究グループは、双極性障害患者前頭葉における遺伝子転写制御領域のDNAメチル化状態を明らかにしました。

 DNAメチル化は「エピジェネティクス」※3における主要な分子メカニズムであり、遺伝子の働きを変化させることにより様々な疾患に関係していると考えられています。研究グループは、米国スタンレー財団※4より提供を受けた前頭葉死後脳試料を用い、神経細胞核分画※5を行った上で網羅的なDNAメチル化解析を行いました。その結果、患者では多くの遺伝子が低メチル化状態にある一方、精神?神経機能に重要な遺伝子は高メチル化されていることを明らかにしました。DNAメチル化状態に変化のあった領域は、双極性障害との遺伝学的関連が報告されているゲノム領域に有意に集積しており、遺伝要因との関連が認められました。

 本成果により、双極性障害の病態に関する理解が進み、エピジェネティックな状態を標的とした治療薬の開発が期待されます。

 本研究成果は、令和3年4月20日付(英国時間)の医学雑誌「Molecular Psychiatry」において公開されました。

 また、本研究は、科学研究費補助金新学術領域研究「マルチスケール精神病態の構成的理解」「脳?生活?人生の統合的理解にもとづく思春期からの主体価値発展学」、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED)「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト(革新脳)」「臨床と基礎研究の連携強化による精神?神経疾患の克服(融合脳)」「革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)」などの助成を受けて行われました。

【今後の展開】

 神経細胞に特異的なDNAメチル化変化とその特徴を明らかにしたことで、双極性障害の病態の理解が大きく進むと期待されます。また、エピジェネティックな状態を標的とした治療薬の開発が期待されます。

【用語解説】

※1 DNA メチル化

DNAの化学修飾の1つで、シトシン塩基とグアニン塩基が連続しているCpG 配列と呼ばれる部位のシトシン塩基の炭素にメチル基(-CH3)が付加されている状態。主に遺伝子の発現を抑制する方向に働く。ある領域のCpG配列の多くにメチル化が生じている状態を高メチル化、逆を低メチル化状態という。環境要因の影響などを受け変動することが知られている。

※2 遺伝子転写制御領域

DNAにおける転写制御を担う領域であり、プロモーター領域と呼ばれる。遺伝子の働きのONとOFFや、発現量の調節に関わる。

※3 エピジェネティクス

「遺伝子の塩基配列(設計図)の変化を伴わずに、子孫や娘細胞に伝達される遺伝子発現調節機構」と定義される。DNAメチル化やヒストン蛋白質修飾などが主要な分子メカニズムとして研究されている。

※4 スタンレー財団

精神疾患の基礎研究をサポートする米国の非営利団体。活動の一環として患者から提供された死後脳組織を集積し、研究目的として無償配布を行っている。

https://www.stanleyresearch.org/

※5 神経細胞核分画

神経細胞核には非神経細胞核にはないNeuNタンパク質が発現しているため、NeuNタンパク質を標的とした蛍光標識抗体を用いて神経細胞核群だけを選り分ける(分画する)ことが可能。

 

【論文情報】

    • 論文名:Decreased DNA methylation at promoters and gene-specific neuronal hypermethylation in the prefrontal cortex of patients with bipolar disorder
    • 著者:Miki Bundo?, Junko Ueda?, Yutaka Nakachi, Kiyoto Kasai, Tadafumi Kato#, Kazuya Iwamoto#

      (?同等貢献、#責任著者)

    • 掲載雑誌:Molecular Psychiatry
    • DOI:10.1038/s41380-021-01079-0
    • URL:https://www.nature.com/articles/s41380-021-01079-0.

【詳細】 プレスリリース本文 (PDF455KB)

お問い合わせ
熊本大学大学院生命科学研究部
分子脳科学講座
担当:岩本 和也(いわもと かずや)
電話:096-373-5054
e-mail: iwamoto※kumamoto-u.ac.jp
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