天然物から細胞周期阻害物質の探索に成功
【ポイント】
- HeLa/Fucci2細胞を用いて蛍光イメージングによる細胞周期阻害活性のハイスループット評価系を構築することに成功した。
- 上記評価系により、当研究室独自の天然物エキスライブラリーのサンプルをスクリーニングし、海綿Datylospongia metachromiaのエキスが細胞周期をS期からM期にかけて停止させることを見出した。
- その海綿エキスから、細胞周期阻害物質として、新規ベンゾキノンneoisosmenospongineを単離することに成功した。
- 本評価系を探索研究に適用することで、天然物から新たな細胞周期阻害物質を発見することが可能であると考えられる。
【概要説明】
天然物からは、医薬品の原料となりうる化合物あるいは特定の物質の検出を可能とする化学物質となるような、ユニークな化学構造と強い生物活性を示す低分子化合物が数多く発見されてきました。また、現在臨床で使用されている抗がん剤の半数以上が天然物由来であり、天然物が新規抗がん剤開発のシーズとして強く期待されるものであるといえます。
がん細胞などの細胞は、分裂を繰り返すことによって増殖します。一つの細胞が二つに分裂する過程を細胞周期と呼び、細胞周期は、G1期、S期、G2期、M期の4つの期間に分けられます。
本研究では、細胞周期阻害物質をハイスループット※1で評価するため、細胞周期可視化マーカーであるHeLa/Fucci2細胞の蛍光イメージングを応用し、細胞周期阻害活性を定量的に解析することができる評価系を構築しました。そして、当研究室で保有している天然物エキスをスクリーニングし、細胞周期をS期からM期にかけて停止させる新規天然物を発見し、そこから細胞周期阻害物質を単離することに成功しました。
本研究は、熊本大学大学院生命科学研究部附属グローバル天然物科学研究センター天然薬物学分野の人羅勇気助教、瀬治山藍大学院生、本田公洋大学院生、塚本佐知子教授、琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設の伊勢優史研究員、Sam Ratulangi大学(インドネシア)のFitje Losung補佐員および Remy E. P. Mangindaan教授により行われ、研究成果はBioorganic & Medicinal Chemistryに令和3年2月1日に掲載されました。また、本研究は文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて実施したものです。
【用語解説】
*1 ハイスループット:迅速に効率よく処理すること。
?【論文情報】
論文名:Fluorescent image-based high-content screening of extracts of natural resources for cell cycle inhibitors and identification of a new sesquiterpene quinone from the sponge, Dactylospongia metachromia.
著者:Yuki Hitora,a,1 Ai Sejiyama,a,1 Koyo Honda,a Yuji Ise,b Fitje Losung,c Remy E. P. Mangindaan,c Sachiko Tsukamotoa
a Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Kumamoto University, Japan; b Sesoko Station, Tropical Biosphere Research Center, University of the Ryukyus, Japan; c Faculty of Fisheries and Marine Science, Sam Ratulangi University, Indonesia. 1 contributed equally
掲載誌:Bioorganic & Medicinal Chemistry
URL:https://doi.org/10.1016/j.bmc.2020.115968
?【詳細】 プレスリリース(PDF605KB)
お問い合わせ
熊本大学大学院生命科学研究部附属グローバル天然物科学研究センター
天然薬物学分野
担当:助教 人羅 勇気、教授 塚本 佐知子
電話:096-371-4382、4380
E-mail:hitora※kumamoto-u.ac.jp、sachiko※kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)