磯の香りをたどればクジラは餌の在処にたどり着く
【ポイント】
- 海水や海洋大気に存在するジメチルスルフィド(DMS)(磯の香りの成分)の分布をオキアミなどの動物プランクトンの分布と合わせて初めて可視化しました。
- 動物プランクトンの密度とDMSの濃度の間に正の相関があり,クジラなどの海洋動物がDMSの濃度勾配を認識できれば,餌の在処に到達できることを示しました。
- 海洋動物の捕食活動や集団行動,生殖行動などに関わる誘引化学物質をフィールドで探る先駆け的な研究成果です。
【概要説明】
熊本大学大学院先端科学研究部(理学系)の戸田敬教授の研究グループは,米国ウッズホール海洋研究所,ストーニーブルック大学,アメリカ海洋大気局NOAAの研究グループとともに,海洋の大気や海水に含まれる磯の香りの成分(ジメチルスルフィド:DMS)の濃度勾配をたどると,オキアミなど動物プランクトンの在処に到達できることを実証しました。これまで,クジラがどのように餌を探して巨大な体を維持しているか,その生態はほとんど知られていませんでした。今後は,クジラの移動履歴や捕食行動も合わせて追跡し,確かな証拠を積み上げていきますが,本成果が様々な海洋生物と誘引化学物質との関連に関する研究の幕開けになると期待されます。
本研究成果は令和3年2月1日にNatureの姉妹誌である科学雑誌「Communications Biology」に掲載されました。
本研究はJSPSの二国間交流事業共同研究の支援を受けて実施しました。また,ウッズホール海洋研究所のDaniel P. Zitterbart博士は熊本大学国際先端科学技術研究機構(IROAST)の客員准教授も務めています。
【展開】
今後は今回と同様の調査研究をさらに発展させていきます。DMSの濃度分布とともにクジラの行動も併せて追跡し,クジラの移動軌跡とDMSの濃度勾配から,この誘引化学物質の作用をより具体的に明らかにしていきます。また,DMS以外の誘引化学物質についても探っていくとともに,クジラだけでなく,海鳥やペンギンなどの海洋生物の行動と化学物質との関連について,南極などでの調査研究を進めていきます(すでに2020年2月に第1回を南極で実施)。様々な動物の捕食や繁殖,集団行動と化学物質の関連を追及する課題は多く,今後の展開が期待されます。
【論文情報】
?論文名:Natural dimethyl sulfide gradients would lead marine predators to higher prey biomass
?著者名:Kylie Owen, Kentaro Saeki, Joseph Warren, Allessandro Bocconcelli, David Wiley, Shin-Ichi Ohira, Annette Bombosch, Kei Toda*, Daniel Zitterbart*(*印は責任著者を示す)
?雑誌名:Communications Biology, 4 (2021)
?doi:10.1038/s42003-021-01668-3
?URL:https://www.nature.com/articles/s42003-021-01668-3
【詳細】
?プレスリリース本文(988KB)
お問い合わせ熊本大学大学院先端科学研究部(理学系)
担当:戸田 敬
電話:096-342-3389
e-mail: todakei※kumamoto-u.ac.jp
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