エイズ患者で発生するリンパ腫の原因遺伝子を特定!~既存薬が治療に有効である可能性が明らかに~
熊本大学エイズ学研究センター岡田プロジェクト研究室のグループは、エイズ患者で発生する悪性リンパ腫の原因遺伝子を明らかにしました。本研究の成果は、国際科学雑誌Oncogeneオンライン版に日本時間5月9日公開されました。
https://www.nature.com/onc/journal/vaop/ncurrent/full/onc2017138a.html
かつては不治の病と言われて恐れられたエイズですが、様々な抗ウイルス薬の開発によりエイズそのもので亡くなることは少なくなりました。現在は、HIV感染者の3人に1人は悪性腫瘍で亡くなる時代です。特に血液のがんである悪性リンパ腫が発生し、10人に1人が悪性リンパ腫で亡くなることが大きな問題となっています。
エイズで発生するリンパ腫は非常に悪性でいくつかのタイプに分けられますが、なかでも最も予後が悪いタイプに分類される原発性滲出性リンパ腫の発症するメカニズムについては、明らかになっておらず、有効な治療法も見つかっていませんでした。
私たちは、原発性滲出性リンパ腫で転写因子PU.1
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の働き(発現)が抑制されており、その原因としてPU.1の発現を調節するDNAの領域(プロモーター領域)がメチル化
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されていることを世界で初めて明らかにしました。また、PU.1の発現を回復させると、リンパ腫細胞に細胞死が誘導されることを試験管内とマウスモデルで示しました。さらに、既に他の疾病(骨髄異形成症候群)で使われている脱メチル化を誘導する薬剤「アザシチジン」がPU.1の発現を回復させ、リンパ腫細胞に細胞死が誘導されることを明らかにしました。
この研究は、熊本大学エイズ学研究センター岡田プロジェクト研究室の後藤裕樹 博士 (特定事業研究員)、岡田誠治 教授らが行ったもので、文部科学省?科学研究費補助金、特別研究員奨励費、国立研究開発法人日本医療研究開発機構エイズ対策研究推進事業等の支援により実施されたものです。
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PU.1: 血液細胞の分化に重要とされる遺伝情報転写因子。腫瘍細胞に対してどのような作用があるか、は完全にはわかっていなかった。
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メチル化: 遺伝子の働き方に大きく影響する化学反応の一つ。遺伝子の働きを調節している領域のシトシン(C)-グアニン(G)配列のシトシンにメチル基(-CH3)が付加されると(メチル化)、その遺伝子は不活化されて使うことができなくなる。
【論文名】
Restoring PU.1 induces apoptosis and modulates viral transactivation via interferon-stimulated genes in primary effusion lymphoma
【著者名】
H Goto, R Kariya, E Kudo, Y Okuno, K Ueda, H Katano and S Okada
【DOI番号】
10.1038/onc.2017.138
【掲載雑誌】
Oncogene
【詳細】
プレスリリース本文
(PDF 702KB)
熊本大学エイズ学研究センター 岡田プロジェクト研究室
担当:
岡田 誠治 教授 (代表)
後藤 裕樹 特定事業研究員
TEL:096-373-6522
FAX:096-373-6523
e-mail:
okadas※kumamoto-u.ac.jp
hgoto20※kumamoto-u.ac.jp
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