年頭所感

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明けましておめでとうございます。

 足彩胜负彩感染症(COVID-19)は未だ収束せず、第8波が本格化の兆しを見せています。さらに昨年2月から始まり、依然として出口が見えないウクライナ情勢など社会情勢が著しく変容していく中、大学を取り巻く環境も急激に変化しています。

 熊本大学は、明治以来の伝統を有する旧制第五高等学校や熊本医科大学などを母体とし、九州における中核的総合大学として1949年に発足し、地域社会や国際社会と緊密につながりつつ、高度なレベルで教育?研究?社会貢献に取り組んできました。しかし、デジタル?トランスフォーメーション(DX)への対応、カーボンニュートラルへの挑戦、国家プロジェクトでもある熊本における先端半導体工場の製造拠点設置と半導体産業の活性化など、直面する多くの課題にスピード感を持って対応しなければならず、熊本大学には、これらに向けた更なる改革が求められています。

 20214月に学長に就任以来、やがて2年になろうとしております。昨年4月から、国立大学法人の第4期中期目標期間が始まるに当たり、2030年までの国連の掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて、2030年までを見据えた熊本大学の中長期的なビジョンとして、 “地域と世界に開かれ、共創を通じて社会に貢献する教育研究拠点大学”の実現を掲げ、その実現に向けた戦略と取組をまとめた「熊本大学イニシアティブ2030」を策定し、公表いたしました。このイニシアティブは、熊本大学が目指す「教育」、「研究」、「社会との共創?医療」の3つの戦略に基づく取組をまとめたものです。“常に情報を発信し続ける大学”、“常に外から見える大学”、“常に外からの声に耳を傾け、発展し続ける大学” を基本姿勢とし、人材の多様化?好循環の促進などにより、強み?特色を活かした教育?研究?社会貢献の機能を更に強化し、これらの成果を地域及び世界の発展のために積極的に還元してまいります。

 「教育」に関してはDX時代に対応し、文系?理系を問わず全学生を対象に数理?データサイエンス並びに高度な英語力と異文化理解を持った国際対話のリテラシーを身につけられる教育を提供するとともに、SDGsの達成に貢献できるグローバル人材を育成していきます。熊本大学は文部科学省令和4年度数理·データサイエンス·AI教育プログラムの認定を受けました。また、科学技術イノベーション創出に向けた高度な専門性を有した博士人材の育成にさらに力を注ぎます。昨年、地域活性化人材育成事業SPARCSupereminent Program for Activating Regional Collaboration)に採択されました。これは熊本大学が事業責任大学となり、熊本県立大学や東海大学と一緒に熊本県における、英語を中心とした外国語での高いコミュニケーション能力と、DXやデータサイエンスの素養を有する人材育成の加速化を図っていくものです。

 「研究」については、生命科学、自然科学、並びに人文科学分野に設置した国際先端研究組織を更に発展させ、オンリーワンの研究拠点を構築し、世界レベルの研究を展開するとともに国内外から卓越した研究者を集めます。生命科学系では、「国際先端医学研究機構」、「発生医学研究所」などの先端的な研究拠点があり、自然科学系では「国際先端科学技術研究機構」、「先進軽金属材料国際研究機構」などがあります。また、半導体分野における人材需要が高まっている中、地域に根差す国立大学として、その高度人材の供給に応えることは責務と考え、昨年設置した「先端科学研究部附属半導体研究教育センター」を全学組織として発展させる「半導体?デジタル研究教育機構(仮称)」を本年4月1日に設置する計画を進めてきました。

 さらに、今回、これらの取組を加速させ、学生が所属する新しい学部組織(学士課程)として、DX、数理?データサイエンスの素養を身に付け、DX課題に対応できる人材を育成する「情報融合学環(仮称)」及び半導体デバイスの製造?評価?開発に携われる人材を育成する「工学部半導体デバイス工学課程(仮称)」を令和6年度に設置する構想を掲げております。この「情報融合学環」の設置は、昭和54年にそれまでの法文学部を改組し、文学部、法学部を設置して以来、45年ぶり、純粋な学部の設置まで遡りますと、昭和24年5月に、法文学部、教育学部、理学部、医学部、薬学部、工学部の構成で、熊本大学が創立されて以来、75年ぶりの学部相当の新組織設置を行う大改革となります。私は常々国立大学トップ10の大学を目指そうと言い続けています。この大改革がその一助となることを祈念しています。

 「社会との共創?医療」では、地域に開かれた大学として、熊本の発展に貢献していくことが私たちの使命であると考えています。熊本大学は大学や産業界、自治体、金融機関、などと連携協定を締結し、大学が有する研究成果や技術シーズと連携先が持つネットワーク及び地方創生に関するノウハウとの共創により、地域の持続的発展に貢献し、SDGsの達成に寄与したいと考えています。地域医療への貢献では、県医師会や行政と連携して「くまもとメディカルネットワーク(KMN)」を構築しています。

 水と森の自然に囲まれた本学は、キャンパス内に4つの国指定重要文化財の建造物や、肥後熊本藩主であった細川家ゆかりの古文書など重要文化財531点を含む歴史資料群を所有?管理しており、これらは歴史的?文化的価値が極めて高いものです。7年前の熊本地震で被災した五高記念館はじめすべての復旧工事は昨年2月に終了し323日にはオープニングイベントが行われました。今年は本学を更に一大キャンパス?ミュージアム化し、地域に開放?公開していきます。

 今後とも皆様のご協力とご支援をお願いしまして、令和5年年頭の御挨拶といたします。

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                                       令和514日 熊本大学長 小川久雄