年頭所感
新春を迎え、皆様に謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
昨年は、教育、研究、社会貢献の各分野において、多くの成果を上げることができました。これもひとえに教職員、学生、そして地域の皆様方のご尽力の賜物であり、心より感謝申し上げます。他方、大学を取り巻く環境は大きく変化を続けており、2025年も、新たな時代の要請に応え、さらなる飛躍を目指す重要な年となります。
私が2021年4月に学長に就任してから、4年が経とうとしています。2022年4月には、国連の掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて、2030年までを見据えた熊本大学の中長期的なビジョンとして、 「地域と世界に開かれ、共創を通じて社会に貢献する教育研究拠点大学」の実現を掲げ、「熊本大学イニシアティブ2030」を策定しました。
熊本大学が目指す教育研究拠点大学の実現に向けて、「教育」、「研究」、「社会との共創?医療」の3つの戦略に基づく取組をまとめ、「常に情報を発信し続ける大学」、「常に外から見える大学」、「常に外からの声に耳を傾け、発展し続ける大学」 を基本姿勢に掲げて改革を進めるとともに、これまで積み重ねてきた信頼と実績をより一層強化し、その成果を地域?社会?世界の発展のために積極的に還元して参ります。
熊本県は、半導体関連企業を中心とした産業集積が急速に進んでおり、半導体産業の振興における重要地域として、国内はもとより国際的にも非常に注目されています。熊本大学においては、2023年4月に「半導体?デジタル研究教育機構」を発足し、世界的半導体製造企業であるTSMCや台湾の国立4大学との連携も進めています。また、2024年4月には、学部相当の教育組織としては大学創設以来初めて、すなわち75年ぶりとなる「情報融合学環」を始動させ、工学部には「半導体デバイス工学課程」を設置しました。この一連の動きの中で、2025年4月には自然科学教育部に「半導体?情報数理専攻」を設置しますが、国の産業政策や地域ニーズにスピード感を持って応えるため、修士課程と博士課程を同時設置し、いち早く社会に高度専門人材を輩出するという構想となっております。
また、半導体研究に関連した建物として、企業等とのオープンイノベーションによる共同研究を行う研究棟「SOIL(ソイル)(Semiconductor Open Innovation Laboratory)」と、高度情報?半導体人材育成を目的に情報融合学環等の学生や教員が使用する講義室?演習室等を備えた教育棟「D Square(ディースクエア)」を建設中であり、2025年3月の完成を目指しています。この「SOIL(ソイル)」と「D Square(ディースクエア)」の設置により、共同研究と人材育成の相乗効果を狙います。このように今年も引き続き、デジタル化に対応したイノベーション人材と半導体人材の育成、そして教育の国際化を進めていきます。
これからの大学運営に対する抱負として、半導体の好影響を大学全体に広げていきたいと考えており、引き続き「融合」と「グローバル化」を推進していきます。「融合」は、単なる文理融合だけでなく、半導体と生命科学、半導体と経済学など半導体産業と多くの分野を融合した研究部門や新産業(イノベーション)を興こすものです。既に、半導体?デジタル研究教育機構と発生医学研究所や国際先端医学研究機構(IRCMS)の研究者との間で、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)への申請に向けた研究内容の議論を進めていただいております。半導体産業は、半導体を使った新たなユーザー産業を興して初めて次につながり、安定して発展させられると考えています。現在申請中の地域中核?特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)では、地域規模から世界規模の社会課題の解決をテーマとして、異分野の研究者や企業人等も含め様々なバックグラウンドの人材が共同して研究活動を行う「社会共創ユニット」を設置し、融合研究を全学的に展開していく構想となっております。
「グローバル化」については、熊本はさらに外国人材の受入れが増えると見込まれており、熊本大学においても、今後も海外からのトップ研究者を招聘していきます。また、全学部生に対し、実用英語のコミュニケーション力の更なる向上を図る方針を打ち出しています。附属小学校には、国立大学附属学校では日本で初めて、文科省の学習指導要領に沿った教育を英語(一部は日本語)で実施する「国際クラス」を2026年度に設置する予定です。「国際クラス」は、グローバル化を教育においても小学校から進めていこうと取り組んでいるものです。熊本に来ている企業関係者や外国人研究者が熊本の生活環境で最も気にするのは、一緒に来日する子どもの教育面とされており、そのニーズに応えることが設置を決めた大きな理由です。今後は、この熊本モデルが全国に普及していくものと確信しています。そのためにも、大学院教育学研究科(教職大学院)には2025年度に教育の国際化実践高度化コースを設置し、国際クラスの担任を担えるような国際性に富んだプログラムを提供していきます。併せて、教育学部には2026年度より佐賀大学との共同教員養成課程を設置し、新たな入試枠(地域枠?国際枠)を設定するなどの施策を通じて、両教育学部の特徴を融合して相互に高め合いながら、高度な教員を輩出していきます。
新学部構想については、情報融合学環に続く2つ目の新しい学部相当組織として「共創学環」の創設を進めます。共創学環には、「地域イノベーションコース」と「グローバルイノベーションコース」の2つのコースを設ける予定で、2026年4月の設置を目指しております。共創学環では、文理融合の学術的な専門知識?多面的な思考力はもちろん、経営学、国際的コミュニケーション、データサイエンスを身につけ、実社会で活かす力を養います。また、地球規模の視野と地域に根ざした視点、文理の知を融合し、周囲を巻き込み持続可能な社会を共に創り出す人材を育成します。
また、教育研究拠点大学の実現に向け、大学の機能の強化と拡充についても推進していきます。医療分野においては、昨年12月、大学病院にアメニティ施設(くすのきテラス)がオープンしました。この施設には、1階及び2階に調剤薬局、コンビニやレストラン、ベーカリーショップなどのテナントが出店され、3階の会議室は324名を収容可能とする学内でも最大規模の会議室となっており、学会や講演会など、幅広い用途での使用が可能です。また、大学病院では、7月に「心理支援センター」を、11月に「肥満症治療センター」を設置しており、医療と患者サービスの向上を図ると共に、地域貢献に寄与しています。そして、「くまもとメディカルネットワーク」の拡充を進めており、地域医療を含めた県内全体の医療レベルの向上と効率化のために、県や医師会と連携して、病院、診療所、薬局、介護施設などをネットワークで結び、必要な情報を共有してより良い医療に役立てていきます。また、生命系分野においては、発生医学研究所に次ぐ新たな研究所の設置に向けて準備を開始したいと思います。将来、本学の研究の核となるような研究所を設置し、世界中から研究者が集まるような研究施設にしたいと考えております。
改革を進めていく一方で、昨今の物価高騰や人件費上昇、運営費交付金の減少などによる国立大学の厳しい財政状況に対応するためには、外部資金の獲得が必須となります。外部資金獲得のため熊本大学では、「ネーミングライツ」において、これまでに8件の契約を成立させ、年間3,000万円以上の収入見込を達成しました。また、「クラウドファンディング」においても、現時点で80万円~1,600万円単位の5件のプロジェクトを立ち上げ、すべてを達成に導いています。各部局とのアクションプランに係る意見交換でも、必ずお話ししているとおり、今後も科研費等の研究費、企業との共同研究の増加と共に、「ネーミングライツ」や「クラウドファンディング」を積極的に活用して資金獲得に取り組んでいきます。
結びとして、明治20年(1887年)に設立された第五高等中学校(五高)以来の歴史や伝統を守りつつ、国や社会、それを取り巻く国際社会の変化に応じて、スピード感を持って熊本大学の改革を進めて参ります。
今後とも皆様のご協力とご支援をお願いしまして、令和7年(2025年)年頭のご挨拶といたします。
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令和7年(2025年)1月6日 熊本大学長 小川久雄