新しいコミュニケーションワードへの思い
この度、策定された新しいコミュニケーションワードを井上雄彦様に揮毫いただいたのを機に、正式に皆様にご披露することになりました。
昨年から今年にかけて、本学の特徴を表すコンパクトな言葉を持ちたいということで、広報担当の委員会で、本学の特徴は何か、皆様が持っているイメージは、等いろいろ議論いただいた末に、本日お披露目させていただくこの言葉が選定されました。新しい社会を創りだしていく実行力やチャレンジ精神、責任感等、本学の特徴を力強く表現したすばらしい言葉と思っています。このお披露目にあたり、新しいコミュニケーションワードへの私の思いを少し述べさせていただきます。
ご承知の通り、今日、大学への期待は極めて大きいものがあります。「グローバル化」と「イノベーション」をキーワードとする今日の社会で、大学が時代を先導していって欲しい、輝く未来社会を創って欲しい、と言う社会の皆様からの期待が益々大きくなっています。社会を先導するそのエンジンとなるのは大学しかないとの思いなのです。我々は、この期待に応えていかなければなりません。
思えば、我が国は、この150年の中で、大きな変貌を成し遂げて参りました。150年前の明治維新にあっては、我が国は、鎖国から開国し、世界に繋がる道を選びました。
その際、ヨーロッパの学術や文化を「習い、吸収する」ことで世界の一流国を目指しました。本学の前身である第五高等学校等で多くの精鋭が学んだ訳です。その結果、社会のリーダーとして活躍した多くの逸材を世に輩出しました。
第二次世界大戦の後には、ゼロからの出発の中で、欧米に、特にアメリカに学び、新しい民主的で自由な社会を創りました。特に、教育を一部の者だけではなく、国民全てが享受できる体制を確立して、均一でかつ質の高い教育を拡大していくことで、質の高い人材の育成を達成し、その後の世界一の産業経済社会を築き上げました。ここでも人材育成は大きな役割を果たしました。
そして、現在、知識基盤社会と言われ、グローバル化が進んだ情報化社会の中で、極めて厳しい国際競争が繰り広げられています。グローバルな視点から新しい価値を創りだすことが大切な社会へと大きく変化しています。今までのように、決まったモノや決まったことを、正確に均質に創り上げる、きちんと実施する、それ自体は大事なことですが、それだけでは立ち行かない時代になっています。グローバル化社会の中で、価値の多様性を踏まえながら、世界に向けた新しい価値を創り提案していくことこそが最重要課題とされる社会へと変化しています。
明治維新や戦後には、ある意味で、どうすれば良いという答えのあるモデル、お手本がありました。しかし、現代の「グローバル」や「イノベーション」をキーワードとする社会は、もはやどこかに答えがある社会から、むしろそれを創りだしていく社会になったと言ってよいかと思います。
特に、我が国は、世界に先駆けた少子高齢化や巨額の負債(GDPの倍)をかかえる財政状況の中で、エネルギー問題にも目を向けながら、未来に向けて、世界の中の日本として世界に存在感のある将来を設計していく必要がありま。 国立大学は、その先導役を務めることが求められています。それを担うのは、人材であり、新しい「知」の創造です。
かつて、五高生は、勝海舟先生に「入神致用」と激励され、また、漱石は、学生が天下国家を論じる様子を「吾に天下の志」と誇らしくうたい上げたように、五高や熊本大学は、学問の場で切磋琢磨しながら、世に多くの人材を輩出してきました。
今日も人材育成は、国や社会の根幹であり。本学は、社会のリーダーとなる人「財」を社会に輩出していく必要があります。我々は、教職員、学生等が一体となって、我々の未来を考えていかなくてはなりません。
グローバル社会に呼応するという意味で、本学は、例えば、国際化を目指して、この5年間で留学生倍増計画をほぼ達成できました。現在500人程の留学生がいます。将来は、さらに倍増をと思います。一方、日本人を世界に送り出すことも重要です。短期派遣を含めてもまだ年間150人程の学生しか海外で活躍していません。この点は、まだまだ遅れています。
国際化という言葉は、日本が世界に門戸を拓くという世界に取り残されたという響きがあります。もう、「国際化する」のでは遅くて、グローバル社会の中では、全ての国は、世界を相手に一緒に考えています。今日の社会は世界と一体となっています。我が国も、世界の中の日本ということをさらに押し進める必要があります。社会は、いやが上でもグローバル化しています。
このことを踏まえて、改めて、2020年までに本学の学生の海外への派遣の数を現在の倍増、2030年までにさらにその倍増を達成するような目標も必要です。そのためにも、本学は世界に通用する教育をする場でなければなりません。
イノベーションに関して、本学は、研究拠点大学として、国際的な視点の中で先端的、先導的な研究活動を続けてきました。その成果を社会の変革や新しい社会の在り方を考える基礎として役立たせてきました。また、地域に存在する大学としては、大学は、地域の発展のために、シンクタンクとして、オピニオンリーダーとして、さらにコーデイネーターとして、地域の活性化やその将来を担う存在としての役割を果たしています。また、大学は、地域社会を世界に繋く役割も果たしています。
これらの機能は、今後益々重要になると考えられます。機能強化が求められるところです。
今般のコミュニケーションワード「創造する森 挑戦する炎」は、まさに、我々のこれまでの努力とその上に立って我々の行く末を示す言葉、我々の輝く将来への思いと軌を一にする言葉になっていると思います。
本学は、今後も、いわば、世にリーダーを輩出する「平成の五高」としての機能を果たし、そして100年後も輝き続ける存在でなければなりません。そんな本学でありたいと思います。
輝く未来のために新しい創造的な「知」がどんどん生まれ育ち、また、いかなる困難の中でも、怯むこと無く、具体的に課題を解決していく姿勢を言い当てています。熱い思いでチャレンジする高い志に満ちあふれた学生諸君や教職員の集団が本学の真骨頂であることを示しています。
このたび、このような思いに対して、本学ゆかりの井上雄彦(たけひこ)氏に揮毫いただくことができました。井上さんの書や思いがこの後、紹介されますが、誠に力強い思いのこもった書になっていること、大変嬉しく思います。
この書に負けない力強さで、本学の未来を皆さんと一緒になって創りだしていきたい と申し上げて、お披露目にあたってのご挨拶といたします。
平成25年11月1日
学長 谷口 功
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